Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル

    “春うらら”
 



一応は“暖冬”だったけれど、
この頃合いに夏日?というほど暖かくなった翌日、
今度はいきなり平年並みの気温になるという
ドSな乱高下が頻繁だった散々な冬がやっと過ぎゆき。
弥生の終盤に、桜が咲くのを期待するほど暖かくなったのも
直前の極端な行ったり来たりの冬を思えば
早かったのかどうだったのか怪しいものだったが、(笑)

 「確かにまあ、ちょっと咲いたらすぐにも寒いのが戻ってきたけど、
  そのおかげで今年の桜は見ごろが結構長かったって言うしね。」

 「そですよねぇvv」

セナ、お花見3つも行ったですものと、
お家からのと王城の皆さんのと、ヒル魔くんたちと行ったのとと、
小さなお手々のやわらかそうな指を折って
1つ2つ3つと数えて見せる小さな坊やの稚なさへ、

 「〜〜〜。」
 「…進、何か言ってあげないか。」

感極まったように そんなあどけなさに見入っているの、
自分は事情が判っているけど、
周囲の人には判らないのだ、睨んでいるんじゃあと誤解されるぞと。
5度に1度は注意するようにしている桜庭が、
やれやれと肩をすくめた、ここは泥門市内のとある緑地公園の遊歩道。
大学も小学校も既に新学期は始まっていて、
大学のアメフト界ではあくまでも交流戦という形式
様々な格好での本格的な試合も毎週末に始まっているのだが。
先輩が抜けたポジションへの編成がまだ定まっていないこともあり、
トレーニングもさほど躍起に構えたそれではなく。
週の半ばという今日本日は、
大学生の二人がセナくんをお迎えに来てくれて、
お散歩がてら、のんびりと過ごしなさいとのお達しが
コーチたちから飛んできたとか。

 “…いや本当に、
  誰かさんが新学期そうそう、
  IC搭載のトレーニングマシンを2、3機ほど
  酷使しすぎて たったの半日でエラー状態に追い込んだからとか、
  それで他のまで同じ憂き目に遭わせぬよう遠ざけられたとか、
  そういう順番の息抜きじゃあないから。うん。”

…ふ〜〜〜ん。
まあそれはいつものことだしねぇ。(笑)
息抜きしろ、いやさ大人しくしていろという段取りに、
セナくんをおとりにして連れ出すあたりが桜庭さんもコツを心得ており。
さあ小学校まで迎えに行こう、そのままのんびりお散歩もいいねぇ、
新学期が始まった途端、
向こうから来てもらってばかりで大変な行き来をさせてるんだしねと、
やや強引だったが、
セナくんにも負担を掛けてたんだよ気づいてなかったろうというの
さりげなく匂わせて誘い出した仁王様は。
切れ長の三白眼を見開いて“ややそうだったのか”とあっさり食いつき、
三段ぶち抜きで稲妻に打たれたかのように固まったそのまま
次の瞬間には小学校まで駆け出しかけたの何とか引き留め、
穏便な時間稼ぎも兼ねてここまで何とか運んだ次第。
…桜庭くん、王城では猛獣使いとか言われてないかい?(う〜ん)
こちらの公園ではそろそろ花吹雪も終わりかけの桜と、
初々しい明るい発色の緑に散らばった、赤やピンクのつつじの蕾が
腰高な茂みにパッチワークのようで綺麗。
時折吹く風に乗って桜の花がさらさら散って舞うのも華やかで、
平日でも来合わせている人が結構多い。
そんな人たち目当てだろう、
ジュースやポップコーンの屋台も出ているし、
何かの売り出しの宣伝か、
赤青黄いろとカラフルで フワフワ軽やかに浮かぶ
ゴム風船を配っている着ぐるみさんもいて、
小さい子供たちが輪になって集まっているのが見えて。

 「セナくんも要る?」
 「え? あ、えと。////////」

わあとついついお顔がほころんだのを、
桜庭さんより先に進さんにおおと気がつかれたようで。
そんな相棒を見て気がついた桜庭さん、
まるで女の子へのエスコートよろしく、
喜怒哀楽を出すだけじゃなくて、何をしてあげたらいいのかのお手本のように、
セナくんへのアプローチをして見せており。

 「えと、今日はこのまま王城に行くんだし、」

お邪魔になるから要りませんと、
丁度風船に群がってるもっと小さい子のように見えたかななんて
そこを恥ずかしがって首をすくめかかったものの、

 「あ。」

そうと言ったものの、ちょっぴり未練があったのか、
いやいやそうではなかろう、
進行方向に何か見つけて立ち止まった小さな王子。
アイドルさんが察しを利かせるまでもなく、何かに気付いた彼だったようで。
あのあのとお顔を仰向かせるのへ、
うんうんと笑って頷いたジャリプロの看板イケメンさん。
大きな目をしたピンクのウサギさん、
きっと中には大学生のバイトくんがインしている着ぐるみへ、
この子へという目配せをして、赤いのを指差して見せたれば。
そちらさんもうんうんと頷く仕草つきで、
アイドルさんの弟で通るほど愛らしい坊やへ、
どうぞと1つ進呈してくれる。
わぁいと明るく頬笑んで、ありがとうという良い子のお礼つきで受け取った、
玉子色のパーカーも可愛い、くせっけの坊やはといや。
ドラマの中のワンシーンのようにたかたかと元気よく駆け出すと、
最初にはっと目に留まった対象、
テラコッタを模したそれ、赤いレンガを敷いた遊歩道の先の方に立ち尽くす、
小さな女の子へと駆け寄った。
赤いタータンチェックのジャンパースカートに、淡いピンクのブラウスを合わせ、
スカートのすそ近くまで丈のあるカーディガンを重ね着た、
白いソックスに赤い靴っくの女の子。
まだ細い質の髪、上の方だけ掬って三つ編みにしたのが、
線の細いお顔にようよう似合う愛らしさだが、
さっきから何かへ困ったなぁというお顔でおり、
上を見上げちゃ、うううとぽわぽわの眉を寄せ、
でも自分ではどうしようもないのへやわらかそうな唇噛んでは
困った困ったと立ち去りかねておいでだったのであり。
それが募った挙句に泣き出しそうになってたのへ、

 「はい、これ。」

セナくんが差し出したのが、
スズカケだろう、大きなテーマツリーの梢に引っ掻かっていたのと同じ
赤い色のゴム風船。

 「あ。」

一瞬、たすかったと言わんばかりに頬をほころばせかけたものの、
セナくんとそれから優しそうなお兄さんを交互に見やり、
日頃から知らない人からものを貰っちゃいけませんと言われているのだろう
お母さんからの言いつけとの葛藤を見せるのがまた判りやすくて。
なので、

 「あげるんじゃなくて取り換えっこだよ?」

目許をたわめ、にゃは〜っと笑ったセナくん、
やっぱり頭上を見上げると、

 「あの風船を貰うから、
  その代わりにこれはキミのだ。それならいいでしょ?」

 「えっと?」

急な展開、まずは飲み込めなかったか、どぎまぎして見せる女の子だったが。
優しい雰囲気の二人があんまりにこにこしているのと、
ほらと手の傍へ 持ち手代わりか小さなプラスチックのプレートがついた風船の糸を差し出され、
そっちの誘惑には敵わなかったか、素直に手を伸ばしてきたので、
申し出た側もひとまずはホッとする。

 「ほら、こうやって結んでおこうね。」

結構長い糸だったので、女の子の手首へくるんと一巻きしてからゆるく結んでやり、
桜庭がそうすれば飛んでかないよと笑って差し上げれば、

 「…うん。ありがとう。////////」

ぱあっと真っ赤になって、そのまま駆け出すところが初々しい。
やはり兄弟のようにふんわりしたムードを醸した二人が、手を振って見送ってから、
そのまま振り返り振り仰いだスズカケの木の上には、
既にもう一人のお連れが活躍中で。
背後にい合わせた人たちがそっちへ注目してもおり、

 「進〜ん、トレーニングモードで懸垂するんじゃなく、ちゃんと足も使え。
  重さを分散しないと枝が折れるぞ。」

桜庭からそんなお声を掛けられて、
まだ小さいセナは何のことだか判らぬと小首を傾げたが、
当のご本人様は、さすがに大学生で意味も通じたか、

 「む。」

言われてみりゃそうだと、手掛かりにぶら下がるだけという登り方から一転、
危なげなく足もかけ、すいすいと結構な高みまでを登ってゆき、
あっという間に風船の糸を手に降りてくる。
強引極まりない力技だが、それでも早かったのがさすがと言えて、

 「こんな早く取れたなら、ただ取ってあげても良かったかな?」

クリスマスにはイルミネーションで飾られもする結構な大木なので、
まずは先に安心させたくてと別の風船を用意した格好になった段取りだったれど。
こうも早く片が付いたなら、
交換しようなんてややこしい仕立てにしなくてもよかったかなと桜庭が笑ったが、

 「でも、枝に擦れてたらすぐにも萎んじゃいますよぉ。」

進から風船を受け取り、
さっきよりも濃い笑顔で わあと嬉しそうに笑いつつ、
こちらはよほど買ってもらった覚えありなのか、セナが そんな話をしてくれて。

 「それに、結構な難儀をさせて取ってもらったなんてのは、
  あの子もそうだが
  こっちを見てた母親も恐縮しかねねぇしな。」

 「そうそう。もう風船なんかほしくないなんてトラウマになったら…って、おや。」

別な声が挟まって、おやおやと辺りを見回した桜庭の視野の中、
大きな進のガタイの陰からひょいとお顔を覗かせたのが、
まずは小さなシェットランドシープドッグで。

 「??」
 「あ、キングだvv」

何だ何だ、犬が喋ったのかと、
小さなコリーのようなわんこが
ふさふさ絹糸みたいないい毛並みをまとわせたお尻尾を振っているの、
怪訝そうに見下ろした桜庭のお隣で。
セナが無邪気に笑ったその声に続いたのが、

 「お前らも同じことをやらかそうとは思わなんだ。」
 「あ、ヒル魔くんだ、さっきぶりvv」

学校の教室で別れて以来というご挨拶をするセナだったのへ、ははと小さく笑ってやり、
そちらもそちらで観ようによっては兄弟みたい、
小さなシェルティくんを従えた金髪のクールビューティさん、
蛭魔さんチの鬼軍曹こと妖一くんが、
そんなサイズがよくあったなというパイロットジャケットに
オイルコーティングされた濃い色の
やはりパイロットが来ていそうなパンツを合わせたマニッシュないでたちで
不敵そうなお顔で立っておいでで。

 「同じことってのは風船のお話?」
 「おう。あ、やっと来やがった。」

お行儀よくお尻尾をはたはたしてお座りしていたキングの後ろから、
そちらさんはライダー仕様のジャケットにようよう着ならした革のパンツという格好の、

 「葉柱くんだ、似合ってるね意外と。」
 「うっせぇな#」

ともすれば進より上背がありそうな偉丈夫の手に、
セナくんのとお揃いの赤い風船と来て、とりあえずの社交辞令が出た桜庭だったが、
この場合は火に油だったようで。(笑)
ご本人にすれば、

 「大体、こういう時こそお前がだな。」
 「おお、俺もそう思ったが、こいつらが。」

風船を先に手に入れそうだったんでなと、見守る方に回ったらしく。
妖一くんが可愛い子ぶればあっさり手に入っただろう赤い風船、
このお兄さんが手に入れようと思ったならば、

 “あのウサギくんを脅しでもしてせしめたか、”

見た目より、実は気の良い奴だと知ってはいるが、
そういう感慨は 短くはない付き合いがあってこその把握。
なので、手っ取り早くとなると、意には添わぬが寄越せと凄んだんじゃあなかろうかと、
桜庭がついつい余計な想像をしている眼下では、

 「俺はお前らとはちょいとアプローチが違うがな。」

同じような親切心じゃねぇよと、何で一緒にされるといやなのか、
そちらも少々口許をとがらせた小悪魔さんが、ジャケットのポッケから取り出したのが、
画面の大きめな1台のスマホ。
小学生の小さな手にはあまりそうなそれだったが、セナの手元へ素早くかざすと“ピピッ”と短い音が出て、

 「その持ち手のプラスチックのプレートに、何か貼っつけてあるんじゃね?」
 「え? あ、ほんとだ。」

小さな頭をくっつけ合うよに、
小さな坊やたちが風船の持ち手のところ、
アニメのキャラクターがプリントされたプレートを覗き込むと、
そこには小さめのSDカードが貼ってあるじゃありませんか。

 「なに。ここを通りかかったら、発信器からの電波がこれに届いてな。」

何かのアプリを開いてたらしいスマホ、
ひょひょいと振って見せた妖一くんなのへ、

 「??」

セナと進とが怪訝そうに小首を傾げたが、
困った顔しないでそっちの方が正常な反応だよと、
内心でしみじみ思ったのが葉柱と桜庭。
というのも、

 「何かに貼っ付けた発信器からの反応を拾うためのアプリが入ってっからな。
  ずぼらして初期設定のまま使ってたからこそ、
  俺のが発信された信号を拾っちまったって順番なんだが。」


やはり小首を傾げているキングちゃんの頭をなでなでしてやったセナくんが、

 「発信器って、これについてたの?」

さっき進から受け取った、スズカケに絡まってた風船を視線で示せば、
小悪魔さんが大きく頷いて。

 「ウチの面子への罰則なんぞに使うことがあったけど、
  最近は脱走する奴もめっきり減ってたんで、
  じゃあ何でこんな反応がってあちこちかざして突き止めた。」

 「……葉柱くん。」
 「ウチの躍進の秘密兵器だ。」

そうとしか言いようがないものか、
恐持てのお兄さんがそれでも視線を逸らすところはいっそかわいいくらいであり。
お兄さんたちの複雑そうな心情なんぞ放っておいて

 「受信範囲はそう広かねぇから、誰ぞが間近で探してるはずなんだがな。」
 「紛れ込ませたのはあのウサギさん?」
 「いや〜、あれは知らずに持ってたクチだろな。」

隠し帳簿かゆすりのネタか、
何が入ってるSDなんだろなぁと、
ややもすると恐ろしいお顔でけっけっけと笑う小悪魔さんの様子へ、

 “どうとりなして取り上げたらいいものか。”

大人たちが顔を見合わせた、そんなややこしい昼下がりでございます。






     〜Fine〜  16.04.12


 *別なお部屋の女子高生たちが巻き込まれそうなネタですが、
  そもそもはこっちの坊やたちがこういう話で暴れまわっていたんだよね。
  付き合わされるお兄さんたちにはご愁傷さまです。

 めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv 

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